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愛華 一章4

細い小川のほとりに麻布がしかれていた。離れた場所からはイェンヴェルス軍の陽気な笑い声が聞こえてくる。しかしここは無愛想な兵士が数人いるだけで、静かだった。
兵士らに促されて麻布の上に座り、少女が差し出した食事を手に取る。乾燥したパン、臭いが強いチーズ。食欲など微塵もなかったが、みじめな気持ちを押し殺してそれらを口に運んだ。味など感じなかった。乾ききった土を噛んでいる気分になる。
「もう食べないのですか」
少女が心配するほど、ユリアーノは食事に手を着けなかった。否、これ以上体が受け付けなかった。
葡萄酒をわずかに含んで立ち上がる。
「もう戻るわ」
「え、あの……」
「馬車に乗る必要はない。今宵はここで休んでもらう」
若い男の声だった。この小隊を率いている軍人だ。
普段なら彼の言葉になど耳を貸さないのだが、今回はその内容に不信感を持ち、男を見た。屈強な体つき、日に焼けた肌。いかにも軍人らしい男だ。
「まだ日は高いのに?」
「将軍が間もなくこの小隊に追いつくからだ」
イェンヴェルス語で淡々と語った男は、これ以上用はないとばかりに踵を返した。
「将軍……」
その言葉が、魂を焦がすように熱を持つ。燃え上がるような熱ではなく、ボルドア山に眠る赤い大地の血のような、全てを溶かし尽くす静かな熱だ。
鮮烈な赤。あの赤い悪夢の元凶が、明日自らの前に現れるのだ。
ユリアーノはぐっと拳を握りしめ、遥か北の大地を見つめていた。

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