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愛華 一章8

紅の旗がなびく。太陽を模した紋様は、これを持つ者――イェンヴェルス帝国の、絶対の力と自信を表していた。
銀色に輝く兜と鎧を纏ったひとりの男が、何千もの大軍を引き連れていた。
男の乗った馬が止まると、大軍の動きも止まる。粉塵は風にさらわれていった。
男が馬から飛び降り、鬱陶しげに兜を脱いだ。汗で貼りついた前髪をかき上げる。無駄のない引き締まった四肢。滴るように艶を帯びた黒い髪。そして凄絶に整った美貌が現れると、小隊の兵士らは息を飲んだ。
「クロイド将軍、ご無事でなにより」
「何事もなかったか」
静寂は一瞬で、小隊長の一睨みで兵士らは持ち場に戻り、騒音が戻ってきた。
小隊長が天幕に案内する道中で、クロイドと呼ばれた男が尋ねる。一切の感情も読み取れない声音だ。
「はい、何事も」
「ルアンタスの王女はどうだ」
「……それが」
クロイドが目を眇める。小隊長の方が彼よりも年長のはずなのだが、背筋に冷たいものが走った。

   *

天幕の外が一気に騒がしくなった。本隊が到着したようだ。
一筋の汗が首筋を伝っていった。少女の冷たい手を強く握る。こんなに暑いなら、早く埋葬してあげなければ。本当は故郷の土に埋めてあげたいが、それは絶対に叶えられない。せめて綺麗な花と一緒に埋めてあげたい。
父は、埋葬されたのだろうか。
そうであると信じるしかなかった。ただ、母の隣で眠りたいと言っていた彼の願いは叶わなかっただろうと思うと、無念さがこみ上げてきた。
全てはあの男が奪っていった。父のささやかな、たったひとつの願いを易々と砕いた男。少女達の故郷を奪い、そして奴隷という烙印を焼き付けた。
「場所を空けろ!さっさと持ち場に戻れ!」
小隊長の怒声がすぐ近くで聞こえた。奴隷達の体がびくりと震える。彼の声はいつになく尖り、傍に“将軍”がいるのだと想像がついた。
ヨルラの少女の手を一層握る。
「あなたの命を、決して無駄にしないわ」
たかだか奴隷?違う。彼女にも家族があり、兄弟がいて、将来を約束した相手もいたかもしれない。何も自分と変わらない。いつか結婚して、我が子を抱いて、生まれた大地に帰ることを夢見ていたはずだ。
足音が近付いてくる。天幕の入口に背を向けた姿勢のまま、彼が現れるのを息を殺して待つ。
そしてふたつの影が伸びてきた瞬間、ユリアーノは短剣を掴み、身を翻した。

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