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【改稿】レイピア一章5

ミケラスは自分の容姿が相手にどんな影響を与えるのかよくわかっているからこそ質(たち)が悪い。
そんなことをぶつぶつとつぶやきながら、ルターシアは図書館へ向かっていた。
国王軍本部は広大な敷地を持っており、移動だけでも重労働だ。図書館は中央に位置しているため、どこの部署からでも比較的来やすい。そうした利点もあり、入隊してからというもの、あるものを探すために入り浸っているのだった。
「あなたまた来たの?」
司書のグレイスが返却済みの本を配架するために回ってきた。ルターシアがそこにいるとわかっていたようだ。
「こんな膨大な名簿の中から、よく探そうと思うわよねぇ」
グレイスが見上げた棚には、黒い背表紙の本がびっしりと配架されている。貸出厳禁の、歴代軍人の名前が載った本だ。その中の入隊した軍人の名前が載っているページに、ルターシアはひたすら目を走らせていた。
「しかも頭文字がわかってるだけなんでしょう」
「ええ。でも、二十年前から探していけば、必ず見つかると思います」
「確かに女性軍人は珍しいから、こんな小さな文字の中でも目立つでしょうけど……」
グレイスは明らかに無謀だと言いたげだったが、ルターシアはひるまない。「E」を頼りに、探し続ける。それらしき名前があればその都度メモはするが、今のところどれも男性の名前だ。
また集中し始めたルターシアに、グレイスが話しかける。
「ああそれと、今日エルドール近衛官が戻ってくるのは知ってる?」
「はい、だから今日会うんですけど……」
思わぬところでエルドールの話が出てきて、顔を上げる。思い浮かんだのは、先程のミケの言葉だ。
「グレイスさん、エルドール近衛官のこと、何か知ってます?」
グレイスは何のことかわからないといった様子で首をかしげた。
「ミケラスが……ああ、私の従兄なんですけど、彼と私の兄が、不安にさせるようなことばかり言ってくるんです」
「たとえば?」
「上官がカイラーザ・エルドールだなんてとことんついてないなとか……」
「ああ、そういうこと」
グレイスが苦笑いを浮かべる。どうやら何か心当たりのあることがあるらしい。
「お兄さん達はあなたのことを心配しているだけよ。エルドール近衛官は、軍人としては素晴らしい方よ」
なんとなく「軍人としては」の「は」が気になったのは気のせいだろうか。
「周りの人はそう言うんですけど……」
「それなら、お兄さん達はやきもちを焼いてるのよ。エルドール近衛官は、かなりの美青年だから」
それはないと思う。兄のギゼルフならともかく、ミケはただルターシアをからかっているだけのように感じた。
必死に考えているルターシアは、グレイスの胸の中でいたずら心が芽生えたことなど気付くはずもない。
(お兄さん達はこれを心配しているのね)
くすっと笑って、グレイスはルターシアの耳元に唇を寄せてきた。
「大事なあなたの心と身体が、彼に盗られるかもしれないじゃない」
「…………えっ?」
最初は意味がわからなかった。だがどう考えても言葉の意味そのまましか解釈できず、意思とは関係なく顔が熱くなっていくのを感じた。
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
(この人にまでからかわれてしまった!)
恥ずかしいのやら情けないのやらで、本を閉じようとすると思わず取り落としそうになってしまう。これほど動揺してしまう自分が悲しい。
なんとか本棚に戻し、挨拶もそこそこにルターシアは図書館を後にした。
(食堂の時もこんな感じだったような……)
図書館の扉を後ろ手に閉め、食堂の時から自分の身に起きた災難な出来事(?)を振り返る。
軍学校のころからなんとなく気付いていたが、それは今回確信に変わった。
「からかわれやすいんだ、私は」
本当にいまさらなのだが。それが声に出てるとも知らず、溜息をついて扉から離れると。
「ふぅん、からかわれやすいんだな」
目の前に長身の男が立っていた。二十代半ばで、少し長めの黒髪を軽く後ろに流してまとめた、なかなかの美丈夫だ。狼のように鋭い灰色の目が、ルターシアをじろじろと眺める。
「え、あ!声に……」
「今度から気をつけろよ」
ポンと肩をたたいて、彼は図書館に消えていった。そのときに彼の胸プレートに書かれた「A」という文字が、ルターシアの記憶になぜか残った。
(9月19日初稿、10月31日修正)

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