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愛華 一章10

近くで薪(たきぎ)が爆ぜる音がした。
薬草を焚いたような、嗅いだことのない臭いが鼻をつく。うっすらと瞼を開くと、星のちりばめられた夜空が目の前に迫ってきた。
五感が覚醒し、隣に人の気配を感じた。薪に照らされた端正な横顔は、意識を失う前に見た男のものだ。
彼は煙草のようなものを口に運び、整った薄い唇から白っぽい紫色の煙を吐き出した。
「目が覚めたか」
低い声が落ちてくる。まさか自分に向けられた言葉とは思えなかったが、周囲には他に誰もいない。
このまま仰臥(ぎょうが)しているわけにもいかず、重い身体をゆっくり起こす。
「随分と疲れていたみたいだな。このまま死んでしまうのではないかと思うくらい、眠っていた」
饒舌に語るその横顔を、黙って見つめる。甘ったるい臭いが不快だった。
もう一度煙草をくわえ、彼は傍らにあった盆を差し出してきた。
「食え。ここで死んでもらっては困る」
なおもユリアーノが口を開かずにいると、彼は地面で煙草を押し消し、身体ごとこちらに向き直った。
左頬だけが炎に照らされ、透き通るように輝いた青い双眸に激しい既視感を覚える。
だがそれはすぐにかき消え、真っ黒な泥水が心臓に絡みついたような苦しさに包まれた。
「なぜ父を殺したの」

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