忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Foschia 1

暗闇に覆われた世界は、まるで真っ黒な四角い箱に詰め込まれたように小さく感じる。おだやかに流れる水の音だけが、この小さな世界をうるおしていく。心臓の音のように、この地に生まれ育った者達の体の隅々まで馴染んだ音。まるで羊水の中にいるかのような、静かな夜だった。朝のひどい靄(もや)はすっきりと晴れ、真っ白な月が浮かんでいる。
窓枠に腰かけていたルースは、湿気たマッチを擦った。ベルダ人の患者がくれた煙草に火を点ける。さすらいの民ベルダ人は怪しげなものを対価に、よく彼の診療所を訪ねてくる。
この二階の部屋からはフェネスの街が見渡せるため、ここは彼のお気に入りの場所だった。仕事終わりにこの窓枠に腰掛け、フェネスの運河と月を眺めながら一服するのが彼の至福の時だ。淡い白の煙が風に流れ、暗闇を藍色に滲ませながら消えていく。
乾いた指先で煙草をつまみ、何度かその煙を吸うと、突然咳が出てきた。
「げほっ、げほっ……。安物だろ、これ……」
薬草のような強烈な臭い。たまらず、外を流れる運河めがけてそれを投げ捨てた。
吸い込まれるように落ちて行く小さな火を目で追う。すると、一階の診療所のドアに前に誰かが立っていることに気付いた。

拍手

PR

プロフィール

HN:
都季
性別:
女性
自己紹介:
年齢制限や同性愛を含みます。
PG12…12歳未満は保護者の同意が必要。
R15+…15歳未満閲覧禁止。

ここで書いたものは量がまとまれば加筆修正してサイトに掲載していく予定です。

ブログ内検索

バーコード

フリーエリア