レイピア一章3
「――…シア、ルターシア!」
間近で呼ばれて、ルターシアははっと我に返る。食堂内のざわめきが一気に耳に流れ込んできて、苛立ったような様子のサフィアの視線を感じた。フォークとナイフを持ったまま、サフィアの存在を忘れて昨日の記憶を反芻してしまっていたらしい。
「ごめん、サフィア」
「どうせレイピアをもらったときのことを思い出してたんでしょ」
慣れたように食事を再開したサフィアにならって、ルターシアも両手を動かす。
サフィアは軍学校の友人だ。寮の相部屋で寝食をともにし、共に夢を語ってきた。学校を卒業して軍に入隊してからも、こうして昼食を一緒にとっている。
「だってすごくうれしかったんだもん」
「わかるわかる。でもあんたはもうちょっと周りをよく見ないとね」
軍学校のときから言われ続けている言葉なだけに、耳が痛い。ひとつのことを考え出すととことん考え込んでしまうのが昔からの悪い癖だった。
「それにしてもあんたのお父さん、すごいよね。そんな立派なレイピアくれるなんて」
「兄さまもソードをもらったらしいよ。うちの家では伝統なんだって」
伯爵位をもらう前から軍と深いかかわりを持っていたハシュフルト家。その古い歴史の中でも、女性で軍人になったものはいまだかつていない。女性が軍人になれる制度が整備されたのも、ここ十数年の話だ。現在では三十人近い女性軍人がいるが、それでも男性に比べるとまだまだ少なく、弊害は多い。軍の中でも女性を入隊させることに反対する声は根強いし、実際に風当たりの強さは身をもって体験してきた。
それでも耐え抜いてこられたのは、目の前にいるサフィアや家族の支え、そしてあの人へのあこがれの気持ちがあったからだ。
(あの人――あ、そうだ)
大切なことを忘れていた。新しい生活と環境に慣れることに必死で、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「ルターシア?」
「ごめん、サフィア。私ちょっと調べものがあって」
突発的に椅子から立ち上がる。軍の名簿を調べに行かなければ、と頭はそのことでいっぱいだった。だがその瞬間、椅子に激しく何かがぶつかり、食器のひっくり返る盛大な音が響いた。
(……またやってしまった)
実は初めてではないこの状況に、硬直してしまう。恐くて振り向けない。絶対にあきれ果てていると思ったサフィアは、なぜか笑いをこらえるのに必死な様子だ。
「やりやがったな、ルターシア」
低い声がぞわりと肌を粟立たせる。この声は幼いころから聞きなれたものだ。
「ミ、ミケ?」
恐る恐る振り向くと、そこには眉を引くつかせながらこちらを見下ろす青年が立っていた。
間近で呼ばれて、ルターシアははっと我に返る。食堂内のざわめきが一気に耳に流れ込んできて、苛立ったような様子のサフィアの視線を感じた。フォークとナイフを持ったまま、サフィアの存在を忘れて昨日の記憶を反芻してしまっていたらしい。
「ごめん、サフィア」
「どうせレイピアをもらったときのことを思い出してたんでしょ」
慣れたように食事を再開したサフィアにならって、ルターシアも両手を動かす。
サフィアは軍学校の友人だ。寮の相部屋で寝食をともにし、共に夢を語ってきた。学校を卒業して軍に入隊してからも、こうして昼食を一緒にとっている。
「だってすごくうれしかったんだもん」
「わかるわかる。でもあんたはもうちょっと周りをよく見ないとね」
軍学校のときから言われ続けている言葉なだけに、耳が痛い。ひとつのことを考え出すととことん考え込んでしまうのが昔からの悪い癖だった。
「それにしてもあんたのお父さん、すごいよね。そんな立派なレイピアくれるなんて」
「兄さまもソードをもらったらしいよ。うちの家では伝統なんだって」
伯爵位をもらう前から軍と深いかかわりを持っていたハシュフルト家。その古い歴史の中でも、女性で軍人になったものはいまだかつていない。女性が軍人になれる制度が整備されたのも、ここ十数年の話だ。現在では三十人近い女性軍人がいるが、それでも男性に比べるとまだまだ少なく、弊害は多い。軍の中でも女性を入隊させることに反対する声は根強いし、実際に風当たりの強さは身をもって体験してきた。
それでも耐え抜いてこられたのは、目の前にいるサフィアや家族の支え、そしてあの人へのあこがれの気持ちがあったからだ。
(あの人――あ、そうだ)
大切なことを忘れていた。新しい生活と環境に慣れることに必死で、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「ルターシア?」
「ごめん、サフィア。私ちょっと調べものがあって」
突発的に椅子から立ち上がる。軍の名簿を調べに行かなければ、と頭はそのことでいっぱいだった。だがその瞬間、椅子に激しく何かがぶつかり、食器のひっくり返る盛大な音が響いた。
(……またやってしまった)
実は初めてではないこの状況に、硬直してしまう。恐くて振り向けない。絶対にあきれ果てていると思ったサフィアは、なぜか笑いをこらえるのに必死な様子だ。
「やりやがったな、ルターシア」
低い声がぞわりと肌を粟立たせる。この声は幼いころから聞きなれたものだ。
「ミ、ミケ?」
恐る恐る振り向くと、そこには眉を引くつかせながらこちらを見下ろす青年が立っていた。
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