忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

レイピア一章1

きらびやかな鎧を纏った馬たちが、隊列を乱さずに堂々と歩いていく。
クゼラント王家であるアルマディア家の旗がなびく隣で、〝北東の新星〟ヴィーナ王国の旗が日を浴びて一層紅く燃え立つようだった。
街道の中心を、黒を基調とした瀟洒な馬車が歓声を浴びながら走っていく。グライファルは馬車と並行して馬を操りながら、ちらりとその中にいる人物に目をやった。
麦畑が波立った風景をそのまま切り取ったようなまばゆい金の髪、北の国生まれさながらの透けるように白い肌、それと反するように薄紅色の小さな唇。幼さの残るふっくらとした頬は淡い桃色が浮かび、北の氷の冷たさを感じさせる青い双眸とは対照的だった。それはそれは美しい姫君だと、誰もが称賛するであろうほどの美貌の持ち主だ。
だがその姫君の表情は浮かない。むしろこの馬車が向かう場所が地獄であるかのように、目を伏せ、恐怖を押し殺しているように見えた。
無理もない、とグライファルは溜息を吐く。彼にも子がおり、四人目である三女のルターシアはつい二カ月ほど前に産声を上げたばかりだ。今頃屋敷で妻と使用人達が悪戦苦闘しながら世話を焼いているであろう娘達が、異国の格式に取りつかれた老獪のような王家に嫁ぐ――しかもそれが相手にとって二度目の結婚であるならば、耐えられるだろうか。そしてその結婚が、尊い命の犠牲の上に成り立ち、さらに新たな血を流す可能性をはらんでいるとするならば――。そこまで考えて、グライファルは軽く頭を振った。同情しても、この姫君の運命を変えることはできない。
この姫君に、少しでも多くの幸があらんことを。グライファルにはそう祈ることしかできなかった。

あれから十六年の歳月が経ったのだ、とグライファルはしみじみと感慨にふけっていた。
現在はイェラカ王妃と呼ばれるあの姫君は、あの結婚式から一年後に無事王女を出産し、その後も二人の子を生み、三児の母となった。何度か式典で見かけたときには、あのときの暗い表情はやわらぎ、満ち足りた母の顔つきに変わっていた。そのとき彼女のドレスにしがみつくようにして立っていた幼い王女の姿を、グライファルは思い出す。
まさかあの姫の娘を、自分の娘が近衛官として仕える日が来るなどと、誰が想像し得ただろう。しかもあの姫君の夫たる国王は、かつて彼自身が仕えていた人物でもある。運命とはなんとも面白いものだ、とグライファルはくつくつと笑った。
「何かおもしろいことでもありましたか?」
ひとりでに笑いだした父を、気味悪そうに見る娘の姿に、グライファルは目を細めた。
「いいや。洟(はな)を垂らして遊び転げていたどこかの悪ガキがえらく立派になったな、と思っただけだ」
「……洟は垂らしてませんでしたよ」
「そうだったかな。じゃああれはおまえか、ギゼルフ」
「違いますよ。それはルターシアです。絶対に」
しれっと答えるギゼルフを、ルターシアはじとっと見つめる。そんな兄と妹の姿を見て、グライファルはますます笑った。
「ずいぶんとご機嫌だな」
苦笑いを浮かべながら耳打ちをしてきた兄に、ルターシアも苦笑で答える。
「私が軍人になることは大反対だったのに……よほどうれしかったのでしょうか」
「それはそうだろう。俺が近衛師団に入らなかったときはどれほど不機嫌になったと思う?」
げんなりしたように溜息をつく兄に、ルターシアは同情の眼差しを向けた。
グライファルはひとしきり笑ったあと、思い立ったように立ち上がった。
「どうされました、父上」
ギゼルフが訊ねる。グライファルは二人について来いと合図をして、書斎を出た。

拍手

PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする

プロフィール

HN:
都季
性別:
女性
自己紹介:
年齢制限や同性愛を含みます。
PG12…12歳未満は保護者の同意が必要。
R15+…15歳未満閲覧禁止。

ここで書いたものは量がまとまれば加筆修正してサイトに掲載していく予定です。

ブログ内検索

バーコード

フリーエリア