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愛華 一章3

馬車が止まる気配がして、右手にある扉を注視すると、案の定扉が開いてひとりの少女が現れた。隷属とわかる衣服に身を包んだ少女の手には昼食の載った盆が抱えられていた。
「外へ……」
か細い声で紡がれた言葉は、ユリアーノの祖国の言葉だった。特別に驚くことではない。戦に敗した国が辿る末路を、つい十日ほど前に身をもって知ったばかりだ。
拒否すれば軍人達から引きずりおろされることも学んだばかりだったから、ユリアーノは唇をぐっと引き結び、少女の言葉に従った。足同士を繋ぐ鎖は歩みを妨げるほど短くはない。そのまま馬車を降りて、数刻ぶりの外の空気を深く吸った。埃っぽくて乾燥した空気は、豊かな水に囲まれた祖国のものとは違っていた。まぶたが震えそうになるのを、ユリアーノはなんとかこらえた。
「あと二日でイェンヴェルスに着くみたいです」
頼りない少女の声で、自分ばかりが泣いているわけにはいかないとも感じた。自分以上につらい思いをしている同朋たちはたくさんいるはずだ。だから泣いてはいけない。ユリアーノは拳をぐっと握りしめた。
「あなた、生まれはどこ?」
まさかユリアーノから話しかけられるとは思っていなかったのか、少女は目を瞬かせた。
「あ、あたしは、ヨルラという村に住んでました」
「ヨルラ……知ってるわ。丘が美しいところね」
「……はい」
少女が声を詰まらせる。思わずユリアーノの目にも涙が浮かんだ。そのとき耳障りな男の声が飛んできた。イェンヴェルス語で、「早くしろ」と言っている。
少女にはきっと言葉の意味はわかっていないだろう。だが男の声の調子は少女を怯えさせ、従わせる圧力があった。
「こ、こっちへ……」
少女が足早になる。ユリアーノは思うように歩けなかったが、少女のあとに続いた。

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